信州建築構造協会

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信州建築構造協会1月例会公開講演会のご案内

主催 信州建築構造協会
後援 一般社団法人 長野県建築士事務所協会
開催日 2019/01/25
時間 14:30〜17:10 (受付 〜)
参加費 1,000円
定員 約60名を予定しています。(信州建築構造協会会員を含む)
講演内容
第一部
「軍艦島 -その建築学的価値-」
東京理科大学 工学部 今本啓一 氏
第二部
「BUS-6」と「Revit」の新しいデータ連携のカタチ
株式会社構造システム 取締役マネージャー 安田正弘 氏
会場

ホテル国際21長野

長野市県町576
TEL:026-234-1111

参加申込

一般の方で参加を希望される方は、こちらの申込用紙にご記入の上FAXにてお申込ください。

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お問い合わせ

信州建築構造協会事務局
住所 〒390-0852 長野県松本市島立3510-3
TEL 0263-50-7023
FAX 0263-50-7006
担当:中村

セミナーレポート

◎今本氏が講演◎
○信州建築構造協会が1例会開催○

 長崎市にある世界遺産「軍艦島」の劣化調査を行った東京理科大学建築学科の今本啓一教授。1890年から海底炭抗の島として人工的に開発され、ピーク時には5000人以上が暮らしたこの島には、1974年の閉山後に廃墟と化した70を超えるRC構造物が今も残っている。「この島の調査には、RC造の歴史をひもとく建築学的な価値がある」と今本教授。

■劣化の要因と耐年数を調査
 2011年6月、日本建築学会が長崎市から依頼を受け、端島(通称:軍艦島)に現存するコンクリート構造物群の劣化調査に挑んだ。東京大学の野口貴文教授が主査を務めた「軍艦島コンクリート構造物劣化調査ワーキンググループ」が島に上陸。今本教授は同グループの幹事として調査に臨んだ。
 長崎市からの依頼内容は2つ。「なぜ傷んでいるのか?」という原因調査と「どのくらいもつのか?」という耐年数調査だ。この島にあったS造の建造物は腐食して朽ち、W造の建造物は風雨によって流されてしまった。そんな中、RC造の構造物だけは潮風、高波、台風などの外部環境にさらされながらも現在の姿で残っている。

■軍艦島の建造物群
 島に残されたRC造建造物のうち、日本最古のRC造集合住宅が、1916年に清水組(現・清水建設)らによって建てられた30号棟だ。7階建て、ロの字型の建屋には140戸の住戸を構える。当時はコンクリート用の材料を野母半島から運搬し島内で製造した。配筋は、当時ポピュラーだった「カーン式配筋」が採用された。手すりは腐食を防ぐためスチールではなく木製になっている。
 石炭が採取できる硬い地盤に建つ30号棟は、調査期間中に発生した2016年の熊本地震で損傷。鉄筋の柱と梁が腐食して切り離されている様子が露わになったことから、現在は保存する当初目的を変え、崩壊する瞬間を見届ける方向に研究の視点をシフトしている。
 1918年に建てられた日給住宅(16〜19号棟)は、9階建てのRC集合住宅だ。櫛の歯型の形状で、241戸の住居を構える。間仕切り壁は、石炭を洗浄する際のノロ(洗いカス)でできた「ボタ」を使用。現代のリユース・リサイクルを当時から取り入れていた。
 報国寮(65号棟)は、SRC造9階建てで、島内最大規模の集合住宅だ。1945年に北棟、49年に東棟、58年に南棟が竣工。戦前から戦後にわたって粛々と建設された。
 70号棟は、58年に建設された7階建ての小中学校施設だ。海に面した基礎部分が洗掘されて杭が露出している。現在も変形が進んでおり、非常に危ないため、海側に倒壊しないよう現在はコンクリートで埋め戻してある。

■島での暮らしと水の確保
 明治から昭和初期、島に湧水がなく、海水を蒸留して飲料水を確保していた。その後、給水船が本土と島を往復していたが、海が荒れると欠航するため安定供給ができず。1957年に日本で初めての海底水道が敷設され、1日5000tの送水が可能となった。

■劣化外力調査
 外部環境による劣化の影響を調査するため、風向きや風力、温度や湿度をWEBで常時測定する計測器を設置したほか、飛来塩分量の調査を実施した。風向きを見ると、住居施設が生産施設を守る防波堤の役割を果たす配置となっていることから、お金を生む生産施設を優先的に風雨から守る構造となっていることがわかった。飛来塩分量は、日本で一番飛来塩分量が多いと言われる沖縄県辺野喜と比較しても見劣りしないほどの塩害にさらされる環境であることがわかった。

■目視による劣化状況調査
 腐食のグレードは、一般的な腐食のグレードを用いずに5段階(㈵:表面のひび割れ+さび汁〜㈸:鉄筋の痕跡はあるが朽ちている、あるいは存在しない)で調査を進めた。 65号棟を見ると、予想通り古い棟ほど劣化グレードが高くなる結果になったが、日給社宅を見ると、同じ階層にグレードの0と㈸が混在することがわかった。通常では考えにくい結果だが、調査を進めていったところ、モルタルで補修した跡が見つかったことから、劣化が起こるたびに部分的な補修を繰り返してきたことがうかがえた。
 コンクリートのアルカリ性が二酸化炭素と反応し中性物質に変化することで内部鉄筋の防錆性能が低下する「中性化」に関する試験では、現存する構造物ではあまり進行していないという結果が得られた。コンクリートの塩化物量を見ると、みそ汁の塩分濃度(8〜10kg/m3)の倍近い濃度を記録。ただし、深部にある塩分は外部から浸食したものではなく、元々持っていた塩分だと推測された。当時の施工時、この島の建造物には海水が使われていたものと思われる。完全に腐食した鉄筋もあるが、塩分を含んでいてもほとんど腐食していない健全な鉄筋が多く見つかったことに驚いた。最終的な腐食の鍵となるのは「水」と「酸素」の供給であることを改めて認識させられた。

■劣化は待ったなしに進む
 構造物の劣化は、目の前で待ったなしに進んでいく。原爆ドーム(広島市)のように、残す建物を選んでいけば、廃墟を維持したまま補強・保存できるのではないか。軍艦島に残存する構造物は、厳しい自然環境に晒され極限まで劣化してしまったRC構造物が多数まとまって存在している、世界的にも貴重な研究資源。現状の技術の限界と新技術の開発が必要となっていく。耐久性の研究が進歩するためにも、軍艦島が「RCの耐久性研究のメッカ」になることを期待する。(談)

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